消化器内科医の役割

多くの患者さんのためになる

 日本人の死因の多くを占める悪性新生物、いわゆる“癌”のうち、胃癌、大腸癌、肝癌、膵癌、胆道癌は、癌全体に死因の2/3を占めています。たくさんの疾患のうち、死に直接かかわる、癌を扱い、その苦しみから解放することができるのは消化器内科の重要な役割の一つです。特に近年の医療技術の進歩により、癌の治療法も外科的治療から内科的治療へ変遷してきており、消化器内科医の重要性が増しています。また、直接生命にはかかわらないものの、過敏性腸症候群や、悪心・嘔吐、便秘など比較的多く、生活の質のも大きな影響をもたらす疾患を扱うのも消化器内科の特徴です。

診断から治療、そして予防までのすべてに関わることができる

  多くの疾患は原因が明らかではありませんが、消化器病の一部は原因が明らかになっています。例えばHelicobacter pylori の感染が、萎縮性胃炎を背景に胃癌をもたらすことや、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスの持続感染が、慢性肝炎・肝硬変を背景に肝細胞癌をもたらすことが明らかになっています。このようなリスクをもつ病原体の感染診断や、初期の段階での除菌・ウイルス排除が胃癌や肝癌の予防につながりますし、ワクチン開発によりB型肝炎は感染制御が可能となっています。また、消化器内視鏡や超音波検査などの技術は、早期癌の診断を可能とし、この結果、内科的治療への道を開きます。とくに早期胃癌や早期大腸癌は、内視鏡技術や処置具の開発により、外科的切除によらない内視鏡的治療の適応を飛躍的に拡大してきました。このように医学知識の習得と、技術の獲得により疾患の診断・治療さらには予防にも貢献することが可能となります。医師として疾患を扱うことはもちろんですが、診断・治療・予防のすべてにおいて、患者さんと関わることができるもの消化器内科の魅力の一つです。「先生のおかげで肝癌にならずに済みました。」「先生に早期で発見してもらったので、手術しないで済みました」といわれるのは消化器内科医冥利です。

技術・技能を身につけることができる

 消化器疾患の診断や治療は、様々な技術の進歩のもとに成り立っています。とくに、消化器内視鏡や超音波検査の技術は、診断や治療にはなくてはならないものとなっています。消化管疾患の大多数を占める疾患の診断・治療に、消化器内視鏡の技術は必須ですし、近年急速に進歩している、胆膵疾患においても、内視鏡的な砕石術やステント挿入術などは内視鏡の技術を応用したものです。また、肝臓分野では、ラジオ波焼灼療法をはじめとした肝癌局所療法の基本は腹部超音波技術ですし、肝内腫瘤性病変の存在や質的診断には、質の高い超音波診断技術が必要です。消化器内科医は、一定の研修と研鑚により、このような高度の技術を身につけることができ、スペシャリストとして活躍することが可能です。

医学の発展に貢献できる

消化器内科分野は、世界の中でわが国がリードしているものが数多くあります。とくに、消化器内視鏡は、その開発から応用まで世界のトップランナーであることは間違いありませんが、現在でも特殊光により診断技術、内視鏡処置具とこれによる治療法の開発は他の追随を許しません。またHelicobacter pyloriと胃癌の関連を明らかにしたのも日本人ですし、癌に対する化学療法の歴史を一変させた免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1 抗体の発見も日本人です。また超音波、CT/MRIなどの画像診断装置の開発にも日本人が大きく貢献しています。このように、医学においてとくにわが国の消化器内科分野は、世界のなかでも最先端の分野で、研究に携われば、広く人類に貢献できるような成果をあげることができるかもしれません。

このように、消化器内科は多くの魅力があり、しかも患者さんもたくさんいて、とてもやりがいのある分野です。そして、専門も、胃・大腸などの消化管から、胆膵、肝臓とそれぞれに特徴を持った臓器を担当します。さらに消化器分野では、内科医、すなわち消化器内科医の役割が、今後も増してくるものと思います。患者さんが多く、学ぶべき知識や技術も多く、技能向上のためには常に研鑚が必要など、大変な分野ではありますが、それだけにやりがいもあるものと思います。また、この努力が、なによりも患者さんのために役立つのが消化器内科の魅力です。